平成の東大入試(世界史)難問ランキング5位~1位

コラム

平成の東大世界史難問シリーズ5位~1位です。ここら辺から書くことにも悩むような問題も出てきてだいぶしんどくなってくると思います。

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第5位…1992年・主権国家体制

地図(南北アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア)に示された変化のつく職に注目し、主権国家体制がそれぞれの段階でいかなる新しい展開を示したか20行(600字)以内で述べる問題。

厄介な点としてはまず東南アジアの地図についてです。なぜかマレーシアのみが独立前の時代の地図を使っています。これと問題文は関係がありそうな気がしますが、考えても答案に組み込めるような要素は出てきません。この点を深く考えすぎると時間を浪費します。わざわざマレーシアのみ独立が遅れたと書いてほしいのでしょうか。この地図の出題意図がいまいち見えません。もう一つ難しいのは主権国家体制の新しい展開を書くことです。それぞれの地図で国が独立したと書くのは誰でもできますが新しい展開というと頭を使わないと出てきません。注意しないと「この出来事の後に独立しました」と3回書いて終わってしまいます。

国家の独立過程を書くだけなら容易ですが問題文の題意にそって主権国家体制の新しい展開を書くのはかなり難しいでしょう。

第4位…2003年・運輸通信と植民地

運輸・通信手段の発展が、アジア・アフリカの植民地化を促し、民族意識を高めたことを17行(510字)以内で述べる問題。

運輸・通信手段が植民地化を促したことについては多分かけます。鉄道利権の獲得が植民地化を促進したことや、汽船による移動時間の短縮、無線電信による情報入手の円滑化です。しかし、これとは逆に運輸・通信手段が民族意識を高めたことについて書くのは一般的な受験生にはほぼ不可能に思われます。日露戦争の結果が植民地に伝わったことは習いますがその間にこれら運輸・通信技術が介在していたこと、もしくは植民地のエリート層が留学によって開明的な知識を身に着け、故郷で独立運動を指導したことでしょうか。本番気が付くことができるのは本当に力がある受験生のみだと思います。

テーマ史的な部分もある本問題ですが他の年に出題されている農業や銀の問題に比べると難易度は高い印象を受けます。

第3位…2001年・エジプト史

エジプトに到来した側の関心や進出した背景、進出を受けたエジプト側がとった政策や行動を考えながら文明発祥以来、いかなる歴史的展開を遂げたか18行(540字)以内で述べよという問題。

解答が文明発祥からなのでエジプト5000年の歴史をたった540字でまとめなければならない問題です。もちろん教科書では5000年分みっちりエジプト史を教えるわけではないですが、それを考慮しても明らかに字数が不足する問題で、問題設定に無理があるような気がしてならない難問です。加えてエジプト自体が教科書において時代によってはイスラーム世界に組み込まれて語られるようになるので地域をエジプトに絞って論述するのも意外と難しいです。また、最終的にはスエズ運河国有化あたりまで書く必要があると思われるので、戦後史対策が不十分な現役生には少し厳しい問題でもあります。論述に際しても進出側の関心や背景、エジプトの政策・行動を考えるという注文が付けられており、気ままにエジプト史を書いたのでは思うように得点ができない点もこの問題のレベルを引き上げています。

要求自体が高すぎると言わざるを得ない問題です。もう少し時代を狭めてくれないとバランスよく解答するのは難しいと思います。

第2位…2016年・冷戦期の政治状況の変化

新冷戦期に1990年代以降につながる変化が生まれつつあったことを踏まえながら1970年代後半~1980年代にかけて東アジア・中東・中米・南米の政治状況の変化を20行(600字)以内で述べる問題。

出題の仕方自体は、条件を踏まえながら変化を問う問題で東大入試ではオーソドックスな問いです。出題内容も政治史なので分野としては受験生が最も得意とするところだと思います。では何がいけなかったか、それは時代設定と地域設定につきます。まず時代設定について、1970年代後半~1980年代とされており、戦後史オンリーの論述です。現役生、特に地方公立高校出身の受験生にはここまで学校の授業で終わらなかった人も多いでしょう。指定語句を見てもグレナダや光州事件あたりは1980年代なのでやや難度が高く、大問3で出題されても間違える人は間違えます。センターレベルの知識を何とか身に着けても論述レベルまで仕上げられた人は少ないと思います。現役生と浪人生で大きく差がついたでしょう。

もう一つこの問題の難易度を跳ね上げている地域設定を見てみるとこの論述では教科書でメインに据えられやすいヨーロッパとアメリカ合衆国は対象になっていません。いわゆる周辺史のみの出題です。この設定は出題者の意地の悪さがうかがえます。この時代、これらの地域の細かい政治状況の変化まで覚えているのはかなりのレベルが必要で東大平均レベルでは厳しい出題と言わざるを得ないです。とくに中南米の政治状況については激ムズです。

時代と地域の2つの面から難問で人によっては解答欄を9割以上埋めるのもしんどかった問題かもしれません。しかし平成という時代も終わり、ヨーロッパの影響力が相対的に衰えていく現状を見るとこういった問題が出題されることは今後も十分あり得ると思います。

第1位…2018年・19~20世紀の女性の活動

19〜20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性の活動、女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について20行(600字)以内で具体的に述べる問題。

近年、マイノリティや社会的弱者への差別に対し反対する声は世界的に高まっています。日本においても同様で、差別に関する話題を聞かない日はないと言ってよいほど関心は高まっています。

そんな中で出題されたのが上記の2018年の問題で、内容自体は歴史の問題ですが出題背景には時事的要素が大いにあると思います。出題意図としては理解できる問題ですが、残念ながら最強クラスの難問と言わざるを得ません。その理由についてまず、教科書内の女性に関する内容が少ないという点です。もちろん女性が歴史において活躍していないというわけではありません。しかし教科書での扱いは少なく、指定語句のキュリー、ナイティンゲール以外に活躍した女性を受験生がどれほどあげられるでしょうか。世襲の王族を除けばサッチャーやローザ・ルクセンブルク、マザー・テレサくらいしか上げられないと思います。

そしてもう一つ難易度を上昇させている点は「具体的に」という指定です。前述のとおり有名な女性活動家については名前をあげましたが、彼女たちも女性参政権や女性解放運動に力を入れていた活動家かと言われると微妙な気がします。少なくとも高校世界史レベルでは違うような気がします。そのため女性活動家の具体的な記述に使えても女性参政権や女性解放運動の具体例としてはイマイチです。そもそも教科書には女性参政権や女性解放運動があったことは書いてありますが具体的にどうであったかの記述がほぼないので具体的に書かせること自体が過大な要求だと思います。○○法で女性参政権が認められたとか○○法で女性差別が禁止されたととか、そういった類のことを書くのが精いっぱいです。そのため得点できないことを受験生の所為にするのはかわいそうです。

ただし一つ受験生の盲点になっている点があります。それは世界史の問題で日本史の知識を投入するという点です。リード文には日本の話題も出ているし、問題に日本の出来事を回答から除けとはどこにも書いてありません。間違った内容を書かなければ日本のことを書いたからと言って少なくとも減点されることはないと思います。日本史なら女性解放運動の活動をある程度具体的に述べるのは難しくないと思うのでこの発想に気付くことができれば得点できたかもしれません。しかしそうすると世界史・地理選択の受験生が著しく不利になってしまうという問題があり手放しに褒められるわけではありません。

いつもの東大入試とは違い、比較や相違点、影響といった厄介な形式で問われていない点では安心できます。しかし要求する知識レベルが非常に高く、受験世界史としてみると難問です。

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